APIエコノミーとはなぜそう呼ばれたか ―用法と事例―

機械やひとが、気軽にデータを売買できる時代の始まりです。

 

APIサービスが普及し、企業によるデータ流通が簡単になって、新しい経済圏を生み出しそうだと注目されています。数十年前からある技術が、簡単に使える支援サービスの普及に伴って、新ビジネスの企画・開発に便利だと思われ始めているのです。

 

 

(清水響子・本誌編集部)

はじめに

まずは「APIエコノミー(経済圏)」を取り上げます。耳慣れない方がほとんどでしょうが、一説には260兆円市場に成長するともいわれる分野です。米国ではAPIマネジメント企業の買収が相次ぎました。求人情報サイトindeed.comによれば、APIエンジニアの平均年収は約10.2万ドルにまで達しています。

データ産業の成長につれて対象領域は広がり、企業による大規模データ(Big Data)の第三者提供、産学官民の垣根を越えた共同研究(Open Innovation)、金融サービスの革新(FinTech)や公共機関の情報受発信(Open Government)、学術論文・図書館情報のオープン化(Data Sharing)、製造系企業のデータ流通の効率化(IoT)、エンジニア達のライフハック(Mash Up)など多岐に渡ります。機械学習(AI, 人工知能)のアルゴリズムをAPIで提供する企業も増えて来ました。

もっともシステム開発の当事者たちにとっては、さほど目新しい話題ではないようです。90年代にはすでに用例が見られます。00年代には「Web API」と言って、Webサービス企業が自社のAPIをネット上に公開することが流行しました。そして再び、北米では2010年頃、日本でも2013年頃から、新たに「APIエコノミー」と呼ばれて注目を集めているのです。何が起きているのでしょうか。どんな企業がどんなサービスを手掛け、どんな技術を持ち、どんなデータを公開しているのでしょうか?

 

そもそも、APIって?

API(Application Programming Interface)とは、コンピュータ・プログラムの開発者が、自作したプログラムを他の開発者に使ってもらうときの「手続き・使い方・決まり」の総称です。プログラム自体を指すことも、その開発文書のことを指すことも、プログラムの設計理念を指すこともあります。どうにも抽象的な用語ですが、スマートフォンのアプリ操作にも当たり前に使われる技術です。

「ぐるなび」や「食べログ」で行きたいお店を探すとき、所在地を確認するために、わざわざ別のブラウザで地図を検索したりはしないでしょう。グルメサイトの画面内で「地図」メニューを開けば、そこにはGoogle Mapの地図が表示されますし、現在地からの道順も簡単に検索できます。

でもこの地図、もちろんグルメサイトが作成したものではありません。地図情報はGoogleが提供しています。グルメサイトは提供されたデータを表示するだけです。このようにAPIサービスは、あるアプリが他のアプリの機能を呼び出す「代理」をしてくれます。簡単に図示しましょう。

 

図 1:APIを通じたサービス連携とデータ流通

 

あなたが端末を操作すると、それがアプリへのリクエスト(指示)になります。リクエストを受けたアプリは、前もって連携していた外部サービスのWeb APIを探し、コール(呼び出し)します。呼び出されたWeb APIはそのリクエストに応答して、保有する機能・コンテンツでレスポンス(応答)します。応答の仕方は様々で、新着情報を届けたり、データベースを検索したり、計算処理したり、受け取ったデータを蓄積したりします。HEAD、 GET、 POST、 PUT、 PATCH、 DELETEといった命令文が使われます。

一連の手続きを自動化することで、グルメサイトは自社で地図データを買い揃えずに済みます。Googleは利用者に、地図情報の表示方法をいちいち説明しなくて済みます。Googleに地図情報を販売する会社にとっても、多くの企業に自社データを売り歩く手間が省けます。そしてあなたは旅先で外出するたびに、大きくてかさばる紙の地図を買わずに済むというわけです。

 

分野別の事例

APIは、開発者にとっても助かる仕組みです。たとえ有料でも出来合いのプログラムを使わせてもらったほうが、自分でいちから関連文書を読み、コードを書き、きちんと動くか確かめなくても済むのですから。

この「書かずに/読まずに済ませる」ことが、API設計の基本的な考え方です。その簡単さから、今では無数の企業・組織がAPIの設計と公開を手がけるようになりました。

オープンAPIの検索サービスProgrammable WebのCEOニコラス・シエッロは、2015年1月にズーリッチで行われたAPIカンファレンスの発表で、「2005年から2015年にかけて、同社サイトで検索できるWeb APIが1件から10,302件に増えた」とする統計資料を発表しています。

きっとあなたも(知らないうちに)APIを利用したことがあるはずです。少し調べるだけでも、セクターごとに数々の先行事例が見つけられるでしょう。国内外の主だった事例を表にまとめてみました。APIを用いたデータ流通が、それぞれの産業界で「当たり前のこと」になりつつあるのです。

 

表 1:分野別のAPI活用事例(サービス連携、データ流通、標準化・他)

「API」という用語の系譜

もっとも、APIという用語は新しいものではありません。日本でも1989年には、すでにこの表現が使われています。マイクロソフトやパソコンメーカー、SIerが、32ビットパソコンの動作仕様の共通化に合意したときのことです。当時の主流OS「OS/2」とアプリケーション間のやり取りに関して、文字コード体系やかな変換方法、画面表示インターフェイス、マウスやキーボードなどの仕様が定められました。

この頃はまだ、「API」は同業者向けの「規約」として理解されていました。この伝統的な用例に従うなら、APIは例えば、「複数のアプリケーション等を接続(連携)するために必要なプログラムを定めた規約」 [高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部) , 2016]と説明されます。

 

システムとしての「API」

やがて90年代に入ると、外部の情報サービスと社内システムのデータ連携が盛んに行われるようになりました。例えば新聞社がデータ・プロバイダとして、ニュース記事や経済指標、企業情報などのデータベースを企業に提供し始めます。1984年にサービス開始した「日経テレコム(現:日経テレコン)」も、初めはインフォプロ、ライブラリアンら専門家を中心としたユーザ向けの検索サービスでしたが、90年代初頭から調査部門以外の利用が進みます(エンドユーザコンピューティング)。パソコンの値下がりとイントラネット普及がこれを後押しし、97年「日経テレコン21」発売時には、個々の企業は共通化された手続きに沿って、「日経テレコン」から最新のニュースクリップを自動取得し、企業内LANシステム上で自動更新できるようになりました(AutoCLIP機能)。これも、システムとしてのAPIの先駆けといえそうです。
ここでは「API」が、データ通信のための「規約」にとどまらず、第三者から提供されるコンテンツやサービス、機能そのものまで含む「システム」として理解されています。用例でいえば、「Web APIs are a system of machine-to-machine interaction over a network. Web APIs involve the transfer of data , but not a user interface」 [White House, 2012]とか、「国会会議録検索システムに登録されているデータを検索し、取得するための外部提供インターフェイス」 [国立国会図書館, 2014]といった記述が好例でしょう。

 

ビジネスプロセスとしての「Web API」

00年代に入ると、さらにインターネットが普及するにつれて、APIをWebで公開する企業が脚光を浴びました。2000年にはeBayやSalesforce.comのAPIが、2003年にはAmazonのProduct Advertising APIが公開されます。そして2005年にGoogleとYahoo!が、2006年にはTwitterがAPIを公開。多くのIT企業がこの流れに続いたことで、誰もがアクセスできる「Web API」は、エンジニアたちの市民権を一挙に得ました。

企業が基本無料で自社APIを一般公開することは、インターネットの初期理念のひとつ「オープン・フリー・シェア」の考え方とも合致していたからです。口コミの自然増殖とロックイン効果、マーケティング費用の抑制を狙って、とにかく多くのユーザに自社サービスを体験させたい企業にとって、その宣伝役となりうる開発者たちに自由な遊び場を提供するのは自然なことでした。このトレンドは世界中で多くの交流を生み出しました。当時、Apigee戦略担当副社長だったサム・ラムジが、2010年に「Open API Economy Meet up」を立ち上げたことが象徴的です。

例えば、エンジニア個人が腕試しに、複数のWeb APIを組み合わせたWebサービスを作り(Mash Up)、ホームページや個人ブログで公開する。それが話題を呼び、ベンチャー企業の設立にまで至る。優秀な学生を雇用したい企業がハッカソンを主催する。API利用の手ほどきを書いた投稿記事が、開発者たちの間で人気を集める。それがきっかけになって、担当者間の付き合いが始まり、新しい企画の芽になる――。

ここに至って「API」は、情報産業における「プロセスそのもの」を指す語にまで育っています。より詳しい歴史を知るには、地図APIの料理本(と称する)「Map Scripting 101」の著者アダム・デュバンダーが、2011年に作成した「Open API Growth: a Visualization」が便利です。

用例を見ても、「企業にとってより重要な関心事項となっている、オムニチャネル・ソリューションの構築、競合企業よりも迅速なイノベーションを推進すること、モバイル型企業への転換、ハイブリッド・クラウド環境で事業を運営すること、これらの全ての施策、そしてその先を実現するための根本的な要素」 [Jensen, 2016]だとか、「important tools for providing access to data and capabilities beyond the firewall」 [IBM institute for Business Value, 2016]といった記述には、APIに寄せられた期待が溢れます。

 

共通語としての「API」

すでに各業界や国際団体で、API文書の記述仕様を標準化する動きがあります。使いやすいAPIは、読みやすい書式で書かれます。関係者が各々独自のやり方を押し通していたら、せっかくAPIを提供しても、お互いに扱いづらいばかりか、得てしてまともに使われないからです。

よく知られた例では、Swagger、API BlueprintなどのAPI文書の作成ツール・コミュニティが標準仕様の開発を進めており、2016年11月には、Linux Foundationが中心となり、Microsoft、 Google、 IBMらが参加して、RESTful APIの書き方を標準化する団体Open API Initiativeが立ち上がりました。Swaggerを改称したもので、公的性質の色濃い団体となることへの期待と不安が語られています。

業界別にみても、Webサービスやデータベース、ECサイトなどが先行していましたが、スマートハウス関連データ(HEMSデータ利活用事業者間API標準仕様書)、VR端末(クロノス・グループ)、電子カルテ(日医標準レセプトソフトAPI)、生体認証(FIDO2.0)など各分野でもAPI仕様標準化の動きがあり、多くの仕様書がウェブ技術の標準化団体W3Cに提案されています。

成長著しいFinTech(情報技術による金融業の刷新)の分野でも、金融機関の口座情報に関するAPI仕様や認証システムの標準化がいよいよ始まりました。日本IBMが金融機関向けに「Fintech共通API」の提供を始めたほか、野村総合研究所「IT Solution Frontier」所収「金融分野のAPIエコノミー -オープンAPIが生み出す革新的なサービス-」 [遠藤圭介・高橋寛, 2016] によると、米国「FS-ISAC」が「Durable Data API」の開発に取り組み始めました。日本でも同所等が運営する「OpenIDファウンデーション・ジャパン」が「Financial API Working Group」を設け、検討を始めているとのこと。また金融庁では、2016年7月28日からフィンテックの法整備へ向けた金融審議会「金融制度ワーキング・グループ」を開催。同審議会では「決済高度化のためのアクションプラン」を提示し、「決済における中間的業者」の取扱いをめぐってオープンAPIをめぐる状況と課題を検討。これを受けて全国銀行協会が10月28日に「オープンAPIのあり方に関する検討会」を設置。正会員向けのアンケート調査など国内事業者の対応状況を踏まえて、仕様の標準化、セキュリティ原則、利用者保護原則、法制度面での課題などを検討したうえで、2016年度中に取りまとめを行うとしています。

 

国家戦略としての「API」

こうした動きは、国内外で産学官民を問わず加速しています。先進各国の政府が、データの国際流通を活発にしようと、様々な障壁を取り除こうと働きかけているためです。米国政府が、2012年3月23日に発表した電子政府戦略「Digital Government: Building A 21st Century Platform to Better Serve the American People」(注1)を読んでみましょう。そこでは次の4原則が掲げられています。

 

  • 情報本位(Information-Centric)
  • 共有の場(Shared Platform)
  • 顧客本位(Customer-Centric)
  • 安全と安心(Security and Privacy)

 

このうち「情報本位(Information-Centric)」の章では次の通り明言され、実際にGSA(General Services Administration米連邦政府一般調達局)が、政府機関のAPI対応を支援しています。 [White House, 2012]

 

  1. Make Open Data, Content, and Web APIs the New Default
  2. Make Existing High-Value Data and Content Available through Web APIs

 

日本では内閣府IT情報戦略室が、「世界最先端IT国家創造宣言」を作成し、データ流通基盤の普及や利活用に向けた方針と工程表を年次で改定しています(2013年6月14日決定、2016年5月20日改定)。2016年には「情報銀行」などへの言及が話題になりましたが、当初は「手段」として言及されたAPIの「活用」に着目した記述が増えていることにも注目です。

行政分野ではさらに、データの「構造」も共通化しようとの流れがあります。「共通語彙基盤整備事業」といって、行政機関が用いる「語彙」(データに使われる用語の意味内容や項目、構造など)を統一する事業が展開され、無料の変換ツールの開発も進んでいます(2017年度に公開予定)。その成果は経済産業省「法人ポータル(β版)」(注2)や総務省「統計LOD」、京都市、北海道森町などの自治体に採用されており、新たに作成するデータを県や近隣自治体のグループなどの単位などで統一する試みもスタートしています。

米国でも越境交流が盛んです。飲食店の口コミサービス「Yelp」は2012年に、行政機関が持つ飲食店の衛生検査データを自社サイトに集約しようと、オープンデータ標準「LIVES」を開発しました。「Code for America」の支援を受けて開発が進められ、米国各地から17の地方自治体が参加しています(2016年9月現在)。またYelp自身も、クラウド事業者Socrataが主宰する「Open Data Network」に参加して、LIVESのデータを他の参加者に開放しています。

 

(注1)2017年政権交代に伴い、オバマ大統領時代コンテンツはアーカイブサイトに移行した。

(注2)経済産業版法人ポータル(β版)は、政府全体法人ポータルサイトである「法人インフォメーションが20017年1月19日に開始したことに伴い、当該サイトにデータを移行した。

 

経済圏としての「API」

世界では何が起きているのでしょうか? APIの経済圏(エコノミー)が立ち上がっているのです。すでに、API設計のための業務工程を支援するツール/サービスが、数多く市場に投入されています。

というのも、APIを利用するには、あまたあるWeb APIから目の前の業務に即したものを見つけ出し(検索)、迅速かつ詳細に関連ドキュメントを点検して(読解)、自分が望む結果を得られる仕組みを考え(考察)、それをプログラムとして書き出し(記述)、問題なく動作しているか確かめる(検証)といった作業が求められます。必要なら自社サービスの機能にまで落とし込んで(企画)、接続の安全性や端末間の互換性を確保し(開発)、関連文書を作成する作業(文書化)も求められます。

地道で、大変で、面倒な作業です。エンジニアたちの個人Blogでも、API仕様書の書き方指南や、読みやすい文書の作成に苦しんだことの報告、便利ツールの紹介などが熱心に投稿されています。

 

1.       APIマネジメント企業

それもあって、APIマネジメントといって、APIを効率的に記述し、管理し、公開するためのツール、手段、サポートが充実しています。関連事業には、Mashape、Apigee、Infochimps、Mashery、Swaggar、Blueprintなどの新興企業が参入しています。彼らがAmazonやGoogle、Facebook、Intelなど大手プラットフォーム企業から出資・買収されるニュースも報じられています。老舗ICT企業でも、CA Technologies、IBM、インテル、Microsoft、Oracleなどが関連ソリューションを提供。各社は日本でも精力的に啓発活動を行っています。

例えば、富士通やTISはApigeeのツールを取り入れたクラウドサービスを販売しています。BriscolaはMashapeと販売パートナシップを締結しました。ANNAIは、Drupalをベースにしたデータ公開用ソフトウェアDKANの導入サポートを手がけます。「ITR Market View:システム連携/ミドルウェア2016」によれば、日本のAPI管理市場は2015年時点でまだ5億円規模と小さいながら、Mash Up AwardやMeet up Tokyoなどの開発者コミュニティが、いよいよ賑わっていると聞きます。

 

2.       大規模データ処理のためのAPI

自分からデータを提供するだけがAPIの使い方ではありません。大規模データを預けて、分析してもらい、結果を返してもらうためのサービスもあります。良くも悪くも「人工知能」が世界中で一世を風靡したので、もしかすると、こちらのほうが一般に知られているでしょうか。

大手IT企業が、自前のクラウドサービスと連携させた機械学習ライブラリやその操作ツールを、研究者向けないし一部無料で一般公開する例は、もはや枚挙に暇がありません。サービスでいえばIBM Watson、Google Graph API、Amazon Machine Learning、Microsoft Machine Learning、企業でいえばYahoo!、Facebook、Apple、日本では富士通、日立製作所、東芝、NEC、NTTなどなど。暗号化や匿名化、セキュリティの技術研究の成果も組み合わせながら、驚くべき速さで商用化・実用化が進められています。NTTコミュニケーションズの開発者Blogが、API公開の手引きや事例紹介を早くから行っています。近年の歴史を知るには、データリソース社「米国大手ITベンダーに見る人工知能技術の事業化の方向」の付属年表が端的です。Algorithmiaのように、科学者や分析者が個人開発した機械学習のライブラリを、APIとして売買できるWebサイトまで登場しています。

 

3.       DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)を用いたAPI連携

デジタルマーケティングの業務部門では、データ・マネジメント・プラットフォーム(DMP)といって、データ分析の担当者が社内外のデータを効率よく収集し、分析するための管理ツールが普及しています。Excelなどの表計算ソフトでは手作業が煩雑すぎるが、かといってRやSPSSのような統計ソフトでは使いこなせる従業員が限られるし、HadoopとかSparkとかRedshiftなんて言われても何のことだかよく分からない。そうしたとき、チーム内のデータを手際よく管理する手段として注目されているのです。

事業部門のニーズに呼応して、元データをcsvファイルでアップロードしたり、RDBMSやCRMツール、ERPシステムなどの社内データベースからデータ抽出するだけでなく、Google Analyticsのような汎用分析ツールと連携したり、スマホアプリの操作ログやSNS投稿データ、気象情報やWebメディアが持つオーディエンスデータなど、第三者データをリアルタイムにAPI連携する機能も開発・導入されるようになりました。

周辺領域では、様々な特徴を持ったソフトウェアが登場しています。クラウドサービスとして月額課金で利用できるデータ保有基盤「Treasure Data」、顧客オーディエンスデータの収集・連携に特化した「Intimate Merger」、データの前処理や変換、集計作業を一画面でまとめて操作できる「Alteryx」、グラフの描画や地図へのプロット、検索条件の変更などインタラクティブなデータの視覚化に特化したBIツール「Tableau」、従来のデータ統合技術(ELT)との機能連携を強調し、社内外に散財するデータを「まとめずに、つなぐ(データ仮想化)」ことを標榜する「Denodo Platform」などがあり、どの領域にも数多くの競合製品がひしめく激戦区です。これらの連携にはデータAPIが使われていて、Web広告業界などでは、プラットフォーム間のデータ流通がすでに十分に自動化されていると聞きます。

 

4.      パーソナルAPIアプリ

よりパーソナルで、カジュアルなサービスも登場しています。2010年にスタートしたIFTTT(イフト)は、複数のWebアプリを連携して自動実行する「レシピ」を作成できます。FacebookにTwitter、Evernote、Dropbox、Gmailなど世界的に人気のWebサービスを取り揃えていて、「レシピ」は351に上ります(2016年9月現在で)。サービス名は「If This, Then That(ああすれば、こうする)」の略称です。例えば「Todoistでcompleteしたタスクを完了タスク一覧としてevernoteにメモ」したら、報告書の作成が楽になりそうです。Webサービス連携でLED照明の色を変更できるPhilip hueと連携して、「Instagramにアップロードした写真のカラーを部屋の照明と同期させる」ことも出来ます。

2015年にはYahoo!ジャパンが、日本版IFTTTともいわれるMy Thingsをローンチしました。ヤフオク!やニコニコ動画、LOHACO、Tポイント、ともだち家電など日本企業のAPIが揃っています。日本語メニューで使えるところも便利ですね。「チャネル」(IFTTTでいう「レシピ」)は50ほどながら(2016年9月現在)、IoT時代の到来を実感できそうです。

 

API経済圏の成立条件

これまで見てきた通り、APIの経済圏(エコノミー)には無数の法人・個人が参加し、ひとつのネットワークを形成しています。しかしその一方で、Web APIを用いたサービス開発と比べて、データAPIの提供はまだ発展途上。業務のデジタル化が進んだ業界の、それも先進的な企業の間で、DMPやAPIマネジメントツールを用いたデータ連携が徐々に普及している段階です。

それでは、企業間のデータ流通市場を立ち上げるには、何が求められるのでしょうか。何はさておき、業界ごとの商習慣に沿ったビジネスモデルの検討は求められるでしょう。ここではWeb APIのビジネスモデルを検討しましょう。先行研究による分類例をもとに、次のように整理しました(DMPを用いたデータ連携の生態系はやや複雑なので、「分析技術・学術情報」で詳しく論じます)。

 

図 2 ビジネスモデルの分類(野村総合研究所、ITRの分類を参考に作成) [遠藤圭介・高橋寛, 2016] [内山悟志, 2015]

野村総合研究所「IT Solution Frontier」所収「金融分野のAPIエコノミー -オープンAPIが生み出す革新的なサービス-」とダイヤモンド社「内山悟志 経営のためのIT」所収「企業に“自前主義”からの脱却を図る『APIエコノミー』とは何か?」を参照しています。

今後、ますます多くの企業・自治体が、自前のAPI提供に取り組むと思われます。誰にどんな価値を提供し、何で収益をあげるのか。最適解の模索がなされるなかで、各業界でどのデータ流通プラットフォームが、自律と安定を手にするのか。各プラットフォームは、互いにどのように棲み分け、助け合うのか。データ流通産業の分水嶺が、いよいよ訪れることになるでしょう。

 

APIエコノミーとは何故そう呼ばれたか?

それにしても、APIを「活用する」とはどういうことでしょうか。文書であり、システムであり、ビジネスプロセスでもあって、共通語でも国家戦略でも経済圏でもあるようなものを、どうすれば「活用」したことになるのでしょうか?

ふり返ってみましょう。Web APIが従来のAPI提供と一線を画していたのは、1. API利用者が機能だけでなく、ビジネスやサービスを組み込めるようになったこと(日用化)、2.プログラム開発者だけではなく、無数の働き手や消費者が恩恵を受けられたこと(一般化)、3.API提供者と利用者が直接につながり合えたことです(社会化)。それぞれを詳しく見ていきましょう。

 

1.       利用メリットの日用化

API利用者にとっては、低コスト・短期間でのサービス開発、顧客とのコンタクトポイント増加、既存製品のサービスレベル向上などが期待されます。対するAPI提供者は、自社サービスのチャネル拡大や、提供データの付加価値の向上、自前で創造できない新たなビジネスの立ち上げが期待できるでしょう。

そんな風に、提供者と利用者が気持ちよく相手とつながるには、APIのコードや仕様書が、読みやすくて書きやすい記述でなければなりません。だからWeb APIの提供者は基本的に、自分で書いたAPI仕様が、不特定多数のAPI利用者に活用されることを意識しています。

用例にも日用的な感覚が表れます。例えば、「ソフトウェアが『こういう情報を教えて(渡して)くれれば、こういうことしてあげる or こういうものを返してあげる』と公開する仕様」 [K.K., 2016]だとか、「他社のプラットフォームの機能を自社のアプリケーションに組み込もうとした場合、一からプログラミングするとかかる手間を省くために、プラットフォーム側の企業が提供するインターフェイス」 [Yahoo! Japan, 2016]といった記述からは、APIが便利で・気軽に使えるものであることが示唆されています。

 

2.       関連サービスの一般化

一般の方がAPIサービスを体験することも「当たり前」に近いものになりました。気の利いたホテルなら、館内の端末からUberの配車サービスや、Open Tableのレストラン手配サービスが使えるでしょう。家計簿アプリで証券口座や銀行口座を一元管理する方も増えていますね。あなたが起業を志したなら、大手銀行のWebサイトで、法人口座の開設と必要書類の作成を行えるワンストップサービスを試してみる価値はあります。あなたがまだ学生で、ソーシャルメディアに外部アプリを連携して楽しんでいるなら、API連携でよく使われる仕組み「OAuth」を用いた確認画面を見たことがあるはずです。

公共機関が提供するサービスも増えています。オープンデータ政策の一環です。政府省庁は多くの調査データを「e-Stat」にまとめています。地方自治体はデータカタログサイトで、避難所やトイレの場所、観光地情報などを公開しています。私たちはこれらのデータをWeb API経由で取得できます。市民参加型のハッカソンを開催して、これらのデータを使ったスマホアプリが共同開発された例も増えました。

学術論文を検索・共有する分野でも、オープン・アクセスを掲げ、早くからAPI開発に取り組んできました。国会図書館サーチやCiNiiのWeb APIなど公共機関によるものだけでなく、トムソン・ロイター社の学術情報ソリューション、図書館検索サービス「カーリル」、論文管理ソフト「Mendeley」など、民間事業者も積極的にAPI提供を行っています。

 

3.       コミュニティの社会化

多くのオンライン・コミュニティがそうであったように、Web APIに関わる人たちは、API提供者と利用者が直接につながり合えたことで、分野ごとに独自の社会ネットワークを形成して来ました。この営みを理解する補助線として、シェアリング・エコノミーの思想は真っ先に参考になるでしょう。

その典型として名高いUberは、ドライバーにクラウド型の雇用を、消費者により小さな単位での自動車利用を提供しています(APIエコノミーの解説記事では定番の事例です)。

もちろん一方では、過重労働や制度違反、旧来の商習慣との軋轢、利用者間トラブルなどの懸念も指摘されます。また他方では、余計なコストをかけずに良質なサービスを手に入れたいという、私たち生活者の知恵と工夫の進歩があります。そしてその背後には、高度に管理された部品調達の商流や、極限まで効率化された工場生産、盤石な製品供給網を築き上げた、自動車産業界の工夫と奮闘の歴史があります。

提供者と利用者の役割に流動性があることも特徴的です。今日のドライバーは明日の乗客かもしれませんし、カーマニアの整備工員にクラシックカーを貸した人が、運転免許を持たない家族と旅するためにキャンピングカーを借りる日もあるでしょう。

そもそも「Share」という語は、「分け合う、共有する」といった用法だけでなく、「役割を担う、負担する」「一緒になる、一致する」といったニュアンスでも使われます。データ産業でも同じように、購買の単位が小口化され、いつでも好きな単位(時間、量)で手に入るなら、データを「所有」する意味は薄れるでしょう。小単位の「流通」が簡単になれば、自社のデータに新たな価値が与えられるかもしれません。代わりに、セキュリティ、プライバシー、役割分担、組織運営、企画づくり、価格設定、ユーザ目線の意識など、留意すべきことも際限なく増えて行きますが。

いずれにせよ、これからデータ流通について学びたい方は、オープンAPIに関わる人々が、かつてある種の開かれた社会を作り出して来たことに注目すべきかもしれません。非常識と無作法がもたらす悪事や粗相、誤解も起きていますし、実際の業務現場は猥雑で泥臭いものですが、理想的にいって、エコノミー(経済圏)とは善意と気配りで支えられる公共の空間であるべきだからです。

 

参考文献リスト

データカタログサイト(https://docs.google.com/spreadsheets/d/1mP16fi2wdMAfE0NCG7TDlzVtBN0gTjxwiIkjjo9xlZg/edit#gid=0)へ、本記事の参考文献リストを掲載しています。紹介した企業・サービスの概要も登録しています。